あの音を、もう一度

無事に内視鏡手術を終えることができました。術後はスマホを触る余力もないほど脱力していて、寝たまま何もできずにいました。今も胃がヒリヒリと痛み、身体がまだ手術の余韻を引きずっています。

まずは、先生や看護師の皆さんに、心から感謝をお伝えしたいと思います。手術前、私の緊張を察してくださったのか、「音楽、何かリクエストある?」と声をかけていただき、クラシックをお願いしました。先生のその優しいひと言に肩の力が抜け、身を委ねることができました。

自慢ではありませんが、私はクラシックを聴くとすぐに眠くなります。大切なあの人と何度かクラシックコンサートに行ったことがありますが、きっと毎回途中で眠っていたはずです。それでも、あの時間が私は好きでした。隣にその人がいて、同じ音を聴いているというだけで、世界が少しやわらかくなる気がしていたのです。

幼い頃からヴァイオリンを習い、学生時代にも細々と弾いていました。だからなのか、クラシックは私にとってただの音楽ではありません。懐かしさと、少しの切なさと、胸の奥をそっと揺らすような温度を持った、不思議な存在です。眠ってしまうほど安心できる音楽。そう言ったほうが近いのかもしれません。

そんな思い出がよみがえる前に、ひとつ小さな奇跡のような出来事がありました。手術中に流れていたのはベートーヴェン。意識が朦朧とする中で、最初に聞こえたのは「運命」だったように思います。そのまま意識がゆっくり遠のき、気がついた時には手術は終わっていました。

そして、意識がはっきり戻り始めた瞬間、耳に入ってきたのは、私が学生時代に「もう一度ヴァイオリンを始めよう」と決心するきっかけになった、あの曲でした。

ベートーヴェン《交響曲第7番 第1楽章》。

ドラマ「のだめカンタービレ」をご存じの方なら、千秋の指揮の象徴とも言われる、あの力強い推進力のあるオープニングを思い浮かべるかもしれません。私も当時、そのエネルギーに背中を押されるようにしてヴァイオリンを再開しました。そんな曲が、人生で初めての手術の終わりに、まるで迎えに来てくれたかのように流れていたことに、ただの偶然では片づけられないものを感じました。

身体が快復したら、またヴァイオリンを始めたいと思っています。もう一度、あの音を自分の手で奏でてみたい。20年近くのブランクがあるので、最初は「ぶんぶんぶん」からになりそうですが(笑)、それでも、この人生がまだ長く続いていくと信じて、少しずつ。

そして、クラシックコンサートにもまた行きたい。願わくば、大切なあの人と。

昨日の震えていた私も、今日乗り越えた私も、どちらも、ただそのまま、未来へ繋がっていく。

あの日、音楽がそっと背中を押してくれたように、これからの私もまた、静かに前へ進んでいけたらと思っています。

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