うどんの味

あの日、あの人は、僕のためにうどんを選んでくれた。
その何気ない優しさが、本当に嬉しくて胸に沁みた。

締めのうどんを作るとき、卵を片手で割った僕を見て、
あの人は「すごい」と言ってくれた。
その一言は、ずっと欲しかった言葉だったのかもしれない。

照れ隠しで「練習すればできますよ」と返したけれど、
本当は、あの瞬間の僕は犬みたいに尻尾を振ってしまうくらい嬉しかった。
あの人の「すごい」を、また聞けたらいいなと思った。
たとえそれが尊敬の温度でも、僕には十分すぎるほど温かかった。

出来上がったうどんを二人ですすりながら、
ゆっくり咀嚼する時間が、とても心地よかった。
冷めたうどんは旨みが深くなっていて、
噛むたびに静かに味が広がっていく。
でも、それは成分だけの話じゃない。
大切な人と食べるというだけで、こんなにも味は変わるんだと知った。
あの時間ごと、今まで食べたうどんで一番美味しかった。

僕は少し結論を急いでいた気がする。
あの人から言葉をもらい、手紙をもらい、大好きな音楽をもらって、
「前に進みたい」というみんなの願いにそっと背中を押されているようで。
文字ではなく、歌に乗せたほうが、気持ちがもっと届くのかなって思った。
あの人とは音楽で出会ったから。
だから、会いたいと思ってしまった。

昨夜、彼がうちの会社で働いている夢を見た。
話しかけても返事はなく、ただ黙々と作業を続けている。
彼が切断機で切っている材料は、切っているときはぐにゃぐにゃなのに、
仕上がりだけは不思議なほどまっすぐだった。

その技術がほしいと夢の中で思ったのは、どうしてなんだろう。
あの人と彼の時間は確かに流れていて、
その事実に胸が揺れてしまったのかもしれない。
それでも、あの人のことをまっすぐに考えたいから。
あの人には、どうか笑っていてほしいから。

今の僕にできるのは、こうして今日を綴ることだけ。
ただ、まっすぐにあの人を想う気持ちだけは、揺らぎなく本心だ。

僕が僕であるために。
君が君であるために。
今日もこの音楽を耳に置いて、
答えは急いで掴むものじゃないと、そっと胸に刻む。

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