昨晩から居座っていた雲が、昼過ぎにはゆっくりと退き始めた。青空が少しだけ覗き、陽の光が差し込む。その光景に背中を押されるように、自然と足が前へ出る。
時折、雲の隙間から顔を出す太陽を眺めながら、30分ほどのウォーキング。向かった先は、いつもの図書館だ。
館内のいつもの椅子に腰を下ろし、ゆっくりと本を開く。静まり返った空間には、微かだけれど確かな生活の音が漂っている。
誰かが本をめくる乾いた音。
新聞を広げる柔らかな音。
カウンターで時折響くバーコードの電子音。
そして、たまに聞こえてくる小さなあくび。
それらは、誰もがそれぞれの日常を生きていることを感じさせる、心地よいBGMだった。そんな空気の中で手に取ったのは、『町工場の星』という一冊。
著者は二代目社長。バブル崩壊後の厳しい景気低迷期に会社を継ぎ、経営改革によって業績をV字回復させた人物だ。そこには、壮絶な苦悩と、それを乗り越えた軌跡が綴られている。
読み進めるうちに、ふと自分を省みる。
今、働いていない自分に何ができるのだろう。
成功者の言葉に圧倒され、また卑屈になりそうになる。
正直、文字を追いながら眼鏡の奥には涙が溜まっていた。いつ零れ落ちてもおかしくないその雫は、泣き出しそうな今日の空模様によく似ている。
それでも、この本を借りて帰ろうと思った。
本とは、誰かが懸命に生きた証そのものだ。昨日触れた美術が感性を揺さぶるものなら、こうしたエッセイは、僕の空っぽな知識を補い、静かに満たしてくれる。
この時間が、いつかどこかの場面で少しでも役に立つかもしれない。
だから今、自分の中にある芽に水をあげたいのだ。たとえそれが、こぼれ落ちた涙であったとしても。
その一滴はきっと、僕の中にある「なにか」を育ててくれる糧になるはずだから。
大切なあの人から届いた光。あの人は、今日も仕事だろうか。どうか、無理をしないでほしい。そんな願いを胸に秘めて歩いていると、ざわついていた心はいつしか凪いでいく。穏やかな、午後の始まり。




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