まだ知らない春

仕事

クリスマスイブの朝。
術後の違和感が残る胃をそっと押さえながら、いつものように工場へ向かった。
大切なあの人にはあの人の朝があって、僕にはいつもの朝がある。
それでも、ポケットのスマホが気になってしまう。
何もなくても仕方がないとわかっているのに、胸の奥が少し冷える。

朝7時に工場へ着き、シャッターを開ける。
冬の冷たい水でトイレと洗面所を掃除し、フォークリフトを外へ出して、社員さんのラジオ体操のスペースをつくる。
日めくりカレンダーを進め、事務員さんのパソコンの電源を入れる。

僕の朝のルーティンは変わらない。
入社してからずっと続けてきた習慣で、きっとこれからも続いていくのだと思う。

体操はまだ深いストレッチまでは踏み込めないけれど、その分だけ身体の声を丁寧に聞く時間にもなっている。

体操が終わると朝礼が始まる。以前の職場にはなかった習慣だけれど、今では一日のリズムを静かに整えてくれる大切な時間だ。
朝礼では、鉄鋼関係の新聞から気になった記事を選び、短く意見を述べる。

そのたびに、先代の祖父がよく言っていた
「探究心と好奇心を忘れるな」
という言葉が、ふと胸の奥で響く。

冬の朝は暗く、秋は風が澄み、夏は汗ばむ。
でも、春の朝だけはまだ未経験だ。
どんな匂いがして、どんな気持ちになるのか、まだ知らない。

昼頃、小さなリアクションが届いた。
朝に曇っていた心が、すっと晴れた。
どんな一日を過ごしていても、それはあの人の大切な時間だ。
ただ、誰かにケーキやプレゼントを渡している姿を想像すると、胸がつかまれる感覚がする。
そんな自分も、今は受け入れている。

特別な予定もなかったので、仕事が終わると真っ直ぐ帰り、サモおのサンタ姿を描こうとした。
けれど線が震えて、今日はうまく描けなかった。
気持ちが追いつかない日は、無理に描かなくていい。
描きたい時に描けばいい。
そのほうが、きっとサモおも嬉しい。

季節は巡る。
その巡る情景を、いつか全部描いていけたらいい。
自然に手が動く日が、きっとまた来るはずだから。

春の朝をまだ知らない。
だからこそ、これからの季節が楽しみだ。
未来は白紙のままでいい。
その余白に、また一歩ずつ描いていく。

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