ハートに巻いた眼帯を

思い出

バレンタインのあの日、あの人はチョコレートの代わりにパンの光をくれた。
それは、凍えていた心にそっと灯がともるような、柔らかな贈り物だった。

今日はホワイトデー。
あの日のお返しに、僕もパンの光を届けた。
この静かな感謝が、どうかあの人のもとへ真っ直ぐに届いてほしいと願っている。

穏やかな時間のなかに、かつての日常が不意に混じる。
前職の固定電話からの着信。出ることはなかった。
そのあと元上司からも連絡があったが、それもそのままにした。
用件が何だったのかはわからない。

ただ、今の僕にとって、年始の挨拶もなかった相手と交わす言葉は、もう何ひとつ残っていない。
挨拶というものは、人間関係においてもっとも基本的で、大切なものだと思っている。
ましてや一年の始まりである年始なら、なおさらだ。
その欠如は、僕たちがすでに別の場所にいることを静かに示している。

過去からの連絡に、心を波立たせる必要はない。
今の僕は、自分自身を大切に扱い、守るために毎日を過ごしている。
これ以上、誰かに心を削られるようなことは、もう望んでいないのだ。

「ぼちぼちでいい。ゆっくりで大丈夫」
あの人はそう言ってくれた。
その言葉を心のお守りにして、僕は自分を見失わずに歩いていこうと思う。

まだ治りかけの左目をそっと手でおさえながら、僕は今日も視線を上へと向ける。
夜空にまたたく星を見上げるために。
暗闇に飲み込まれず、自分のペースで光を探し続けるために。

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