優しい百花のプリズムを

思い出

昨夜は、7時間眠れた。
睡眠薬の助けを借りているけれど、今は先生の言葉に従って、体を休めることを優先している。
薬なしで眠れる日はまだ先かもしれない。それでも、こうして泥のように眠れる時間があることに、今はただ感謝したい。

朝はまだ体が重く、ぼんやりとしたまま過ごしていた。
昼が近づく頃、大切なあの人から光がもらえた。あの人の光は、どこまでも柔らかい。
うさぎさんがそっと微笑んでいるような、慈愛に満ちた表情。
その光は、春の陽だまりのように胸の強張りをゆっくりとほどいていく。
その心地よい温度を、しばらくの間じっと噛み締めていた。

しっかり休むことができたので、昨日の分まで腕立て伏せをすることができた。
筋肉が伸びる感覚を味わったあと、はちみつを買いに出かけることにした。
熱は下がったものの、喉の痛みだけが残っていたからだ。

外はあいにくの曇り空。それに少し肌寒い。
あの人は暖かく過ごせているだろうか──そんな思いがよぎり、視線が自然と東の空を向いた。
近くのスーパーへ向かう足取りは、まだ少し重い。

スーパーの棚の前で、どのはちみつを買うか悩んだ。
いつもなら料理にも使いやすい「アカシア」を選ぶところだが、今日はふと小さな挑戦をしたくなった。
いつも選ばないものを選んでみる。ただそれだけのことなのに、心が少しだけ前に動いた気がした。

手に取ったのは、「百花(ワイルドフラワー)」のはちみつ。
アカシアは選ばなかったけれど、ふと聴きたくなって、帰り道はBUMP OF CHICKENの『アカシア』を流しながら歩いた。
ポケモンの曲だけれど、今日の僕はプーさんとクリストファー・ロビンを思い浮かべながら聴いていた。

思えば、いつもあの人に引っ張ってもらっていた。
例えるなら、あの人はクリストファー・ロビンで、僕はそのあとを一生懸命追いかけるプーさん。
あの人の歩幅はいつだって僕より少し大きくて、その後ろ姿を追いかけるだけで精一杯だった。
それでも、その歩みの先に広がる景色を、僕はいつも信じていた。

家に帰り、さっそくひと舐めしてみる。
「アカシア」の透明感とは違い、百花はちみつは甘さが丸く、舌にのせた瞬間にすっと溶けていく。
それは、あの人の光に包まれた時のやわらかい余韻にどこか似ていた。

お湯に溶かすと、立ち上る香りが部屋を穏やかに満たしていく。
その湯気の向こうで、プーさんのシールを眺めた。
あの日、一緒にあちこち探し回った「まんまる焼き」
見つけてくれたのはあの人だった。
あの人の光に導かれるように、僕はいつも大切なものに出会わせてもらっていた。

シールホルダーに入れたシールを1枚1枚手に取ると、それぞれの日の空気、温度、交わした言葉が思い出される。
気づけば、目の奥が少し熱くなっていた。
けれど、それは苦しさの涙ではない。
大切な思い出の1枚1枚が、今の僕をそっと支えてくれている証拠だ。

「そうやって始まったんだよ」
そんな声が、どこかで静かに響く。

今はまだ、あの人の大きな歩幅に追いつけず、立ち止まっているような毎日だけれど。
新しい味をひとつ知るだけで、モノクロだった日常の景色にほんのりと色が差す。

百花はちみつのやさしさに助けられながら、
あの人の光を胸に灯して、
今日という時間を、もう少しだけ丁寧に過ごしてみようと思う。
そんな午後へと踏み出す、一歩の記録。

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