帰ると、請求書が山のように置いてあった。
検印を済ませてから、メールをひと通り確認し、
先輩が担当している案件の図面を静かに開く。
建築図面は流動的に進んでいくから、本当にややこしい。
線の一本、寸法のひとつで全体が変わってしまう世界に向き合うたび、
自分がまだまだ道半ばなのを思い知らされる。
そういえば、建築の世界には「ネコ」という言葉がある。
今日は22日で、ちょっとだけネコの日に近いので、
せっかくだし、少し触れておきたい。
現場慣れした社員さんがミーティングで
「ネコが…ネコが…」と言うので、
最初は本当に現場に猫がいるのかと思ってしまった。
建築で言うネコは、動物の猫ではなく、
鉄骨に部材を取り付けるための小さな金具のこと。
鋼材の形が猫の足に似ていることから、
そう呼ばれるようになったと言われている。

猫の足……と言われても、正直「どこが?」と思う部分もある。
でも、現場の人たちは当たり前のようにそう呼ぶ。
「ここネコつけといて」
「ネコが足りない」
そんな会話が、日常の風景みたいに自然に飛び交っている。
さて、社員さんが帰ってから、役員とノー残業デーについて話す時間をもらえた。
結論としては、今より大きく増えることはない。
ただ、定時で帰る働き方に完全に寄せるわけでもない。
まあ、これまでのノー残業デー(水曜日)だって、
自分が本当に早く帰れた日はそう多くなかった。
もしアドバンテージを得たいと思うなら、
この時間をどう使うかは自分次第だと、静かに背中を押された気がした。
上に立つなら、知識も技術も、
他の社員より伸ばす必要がある。
そのための時間を、どう積み重ねていくか。
胸を張れるように活用したい。
でも、無理はしない。
ワークライフバランスも、たまには大切にする。
工場を出て、ふと空を見上げると、月が笑っていた。
上弦の月へ向かっていく途中の三日月。
細い光が、夜の冷たさをそっと和らげてくれる。
木々の隙間から覗くその姿は、
「今日もおつかれさま」と言ってくれているように感じた。
背中をそっと照らしてくれる光が、
そこにあるだけで呼吸が少し深くなる。
月が笑ってくれるなら、
明日も少しだけ、優しくなれる気がする。
アンテナが夜空にまっすぐ伸びていて、
まるで五線譜のように見えた。
その上で、月がそっとタクトを振っているようにも思えた。
月が指揮する音楽があるのなら、いつか聴いてみたい。
音のない夜に、静かに流れている何かに耳を澄ませたくなる。
そんなことを考えていたら、
小学生の頃の合唱コンクールを思い出した。
あのとき、学年代表として指揮者に選ばれた。
目立つのは嫌いじゃなかったので、すぐに快諾した。
だけど本番、気持ちが入りすぎてしまって、
ダイナミックに振った指揮棒が手からすっぽ抜け、
そのまま前方へ飛んでいった。
恥ずかしかった。
それでも音楽が止まらないように、指揮をやめずに最後まで振り続けた。
終わったあと、先生は笑って、
「よく振り続けたね。えらい。
(指揮棒が飛んでったのは)真剣だった証拠だよ」
と声をかけてくれた。
あのときの声の温度まで思い出す。
今ごろ、先生は元気にしているだろうか。
帰りが遅くなったので、推しの子は明日にまわすことにした。
サモおの色塗りも、今日は無理をしないで明日にしよう。
あの人が灯してくれた光が、
今日の自分の心をそっと整えてくれた。
だからこそ、サモおも気持ちを込めて描いてあげたい。
急がなくていい。
ぼちぼちの歩幅で、静かに積み重ねていけば、それでいい。


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