陽の下で微笑む月

仕事

なんとか今日のうちに、ひとつ歩みを置くことができた。
焦らず、止まらず、ぼちぼちと、灯りをそっと並べるように、
これからも静かに紡いでいく。

朝から川島織物セルコンへ部材の納品と営業の方へ挨拶しに向かった。場所は京都産業大学の近くにあり、京都で第一とされる名門「川島織物」の工業製品部門だ。段通やカーテン、自動車・バス・電車のシートまで手がける、伝統と技術が息づく場所でもある。

受付で名乗り、担当の方を呼んでいただく。
工場に入ると、100メートル先まで続く白い糸の束が揺れていた。古い織機の音、壁一面に並ぶ色とりどりのボビン。その光景は、ひとつの大きな文様の中に足を踏み入れたようだった。

糸の色を眺めていると、自然とあの人の着物姿が浮かんだ。
あの人なら、このボビンの色を見てどんな表情をするだろう。
好きな色を見つけて、少し目を細める姿が想像できて、胸の奥がほどけていく。

川島織物セルコンの技術は、着物の帯や反物の世界と地続きで、緻密な柄合わせ、糸の選別、織りの工程。伝統と現代のあいだで揺れながらも前へ進んできた技術の積み重ねということだった。その揺れは、どこか今の自分にも似ている。完璧ではないけれど、少しずつ前へ進んでいる。その歩みを、この現場が肯定してくれた気がした。

工場を歩きながら、トヨタ自動車の原点の話を聞いた。トヨタは自動車メーカーとして知られているが、その始まりは「豊田自動織機」。日本の自動車産業は、織物の技術から生まれている。川島織物セルコンとトヨタ自動車が合弁会社「TB川島」をつくっているのも、織物と工業製品が同じ精密さを共有しているからだという。

文化が産業を生み、産業が文化を支える。その循環の中に、自分の仕事も組み込まれている。今日納品した小さな金属部品も、段通(格式の高い空間に敷かれる厚手の織物)を展示・施工するための部材として使われる。ただの金属ではなく、文化の舞台裏を支える一部になっている。その事実が、今日の自分の背中を少し押してくれた。

昼過ぎ、大切なあの人から月の光をもらえた。上弦に傾く月のような微笑みが胸の中に舞い降りてくる。その一瞬で、朝からの疲れが溶けていった。織物の色を見たあとだったからこそ、その光はより深く心に染み込んだのかもしれない。

今は23時半。ようやく帰路につく。夕方からずっと図面を描いていて、気づけば身体が固まっていた。けれど、あの人の光を思い出すだけで呼吸が少し深くなる。

サモお、今日は絵を進める日じゃなかったみたいだ。
色も塗っていないし、線画もまだ手を入れたいところはあるけれど、
もさおがジト目で「まあ、ぼちぼちいけよ」って見てる感じ。

急がなくていいし、揺れながらでも前に向けているから大丈夫。
今日は今日のリズムで過ごせたよ。なんとか一日を歩けたし、
あの人の光にも助けられた。そんな夜の記録。

未来を決めつける必要はない。ただ、今日の揺れと今日の光を
少しずつ積み重ねていけばいい。この記録が、未来の私へ続く
一本の糸になりますように。

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