雨が降り出す前に、ジムへと足を運んだ。
といっても、目的は身体を動かすことではない。併設されたワーキングスペースに籠もり、持ってきた韓国語の本を開くためだ。
窓の外では、しとしとと雨が降り始めていた。
時間が経つにつれて雨足はどんどん強くなっていく。
もし、あのまま部屋に閉じこもっていたら、僕はきっと自分自身をダメにしていたに違いない。
午前中のうちに思い切って自宅を出たというその一歩が、今日の僕を救ってくれた。
自宅から徒歩15分ほどの距離にある「SPA&HOTEL水春 松井山手」
ここは温泉とジムが併設されている、僕にとって非常にありがたい場所だ。
平日の昼間ということもあり、館内にはご年配の方々の姿が目立つ。
彼らにとってここは大切な憩いの場なのだろう。
30代後半の男が一人でポツンと座っていても、不思議と劣等感を抱かずに済む。
そんな穏やかな空気がここには流れている。
ふと、スマートフォンの画面を点ける。
深く息を吸いましょう。ゆっくり、ゆっくり
まるであの人が隣で優しく語りかけてくれているような、温かな光をもらえた。
さっきまで少し淡く、どこか暗く感じていた施設の間接照明が、あの人の光を受けてぱっと明るくなったように思えた。
光に包まれたような心地よさの中で、韓国語の勉強を進める。
一通りペンを走らせた後は、気分転換に漫画を手に取った。
選んだのは『ジョジョの奇妙な冒険 第7部 スティール・ボール・ラン』の1巻。
明日からはNetflixでの配信も始まるらしい。
「あとはアニメで楽しもう」
そうやって、純粋に好きなことを楽しもうと思えるようになったのも、あの人が僕の呼吸を整えてくれるからだ。
ここにはサウナも岩盤浴もあるけれど、今の僕にとっての本当の「ととのい」は、あの人が放つ光の中にこそある。
夕方になり、温泉に浸かって火照った身体で水春を後にした。
外はまだ雨が続いていて、夜風が肌に冷たく刺さる。
湯冷めをしないよう、僕は少し早足で家路を急いだ。
今日も筋トレをして身体を鍛える。
心の鍛え方はわからないけれど、身体を鍛え、物理的な軸をしっかり持つことが、巡り巡って心を鍛えることにつながるのではないか。
そう信じて、一歩ずつ進むしかないのだと思う。
帰り道、空を見上げても今日は月が見えない。
厚い雨雲が空を覆い尽くしている。
けれど、雲の上には、変わらずそこに月があることを僕は知っている。
달에는 토끼가 살아.
(月にはうさぎが住んでいる)
今日覚えたその言葉を心の中で反芻する。
見えない月を想い、整えられた呼吸を意識しながら、僕はまた明日へと歩き出す。





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