雨の匂いと温かな風が混じる、感傷的な春の空気の中、僕は大切な物語のひと区切りを見届けていた。今日という一日の流れと心の動きを、ここに書き留めておこうと思う。
三月末、世の中は卒業シーズンの喧騒の中にある。僕はしっとりと肌にあたる雨粒を感じながら、今の僕の現在地を示す「傷病手当金申請書」をポストへと投函した。重い書類が手元を離れる瞬間、少しだけ肩の荷が下りたような気がした。
適応障害と診断されてから、僕の心は長い間、深い霧の中に閉じ込められていた。かつて夢中になれた「好きなこと」に対しても心が動かず、色のない世界にいるような感覚だった。けれど最近、ようやくその霧が晴れ始め、自分の意識が再び「好き」という感情に向き合い始めている。この感覚を取り戻せたことは、僕にとって何よりの回復の兆しであった。
帰宅し、溜まっていた洗濯物を洗濯機に放り込む。乾燥機が唸りを上げる音を聞きながら窓の外を眺めた。空はまだ泣き止みそうにないが、頬を撫でる風はどこか生温かく、冬が過去になったことを告げている。今の僕が、自分の意思でしっかりと見届けたいと思えたもの。それが「蓮ノ空女学院スクールアイドルクラブ」103期の卒業であった。
静かな部屋で、昨日のFèsLiveを再生する。ライブが佳境に入る前、一度画面を止め、甘い香りのピーチティーを淹れた。湯気とともに広がる果実の香りが、少し強張っていた心を解きほぐしていく。
再び画面と向き合う。104期から103期への贈る言葉は、胸の奥を熱くさせた。特に心を揺さぶられたのは、スリーズブーケの二人のやり取りだ。大切な人という吟子の言葉。そのまっすぐすぎる響きに、堪えていた涙が溢れた。
「不思議と君とライブラリー」は、花帆の3年間そのものが音になったようで、ページをめくるたびに喜びと迷いが混ざり合う“青春の匂い”がした。一方、B面のほうは、吟子の心の揺れがそのまま旋律になったようで、“言えなかった言葉”が音の隙間にそっと置かれているように感じた。吟子のまっすぐな優しさと、花帆が選んだ未来。「届かない気持ち」と「進まなければいけない現実」が二人の間に静かに横たわっている。その距離感があまりにも切なく、どちらの選択も間違っていないからこそ、痛みは鋭く胸に刺さった。冷めかけたピーチティーの苦みと甘さを、二人の関係性に重ねずにはいられなかった。
Edel Noteの結末もまた、喪失と継承の物語として深く心に刻まれた。終わりは確かに寂しいが、そこには「ここまで歩んできたからこそ見える景色」を肯定するような、凛とした強さがあった。
誰かを想う痛みさえも優しさに変え、未来へ一歩踏み出す勇気を与えてくれる。心が動くようになった今だからこそ、そのメッセージが真っ直ぐに僕の魂に届いたのだと思う。
エンドロールの余韻に浸っていた昼頃、スマートフォンが短く震えた。画面を見ると、大切なあの人からのスタンプ。窓からひょっこりと顔を出して挨拶するポケモンの姿に、物語の切なさで震えていた心は「ビリッ」と心地よく癒やされ、日常の温かさへと引き戻された。ちょうどその時、乾燥機の終了を告げるアラームが部屋に響く。
大きな別れの物語と、現実のささやかで大切な繋がり。103期が残してくれた心の温度を抱えながら、僕はまた明日へと歩き出せそうな気がしている。この雨が上がれば、空はもっと明るく広がるはずだ。僕もその余白にある温もりを、大切に灯し続けていきたい。




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