夏の記憶

今年の最後に、もうひとつ振り返りたい思い出がある。

夏の日に着物を選んだ時間。 お互いに初めてで、どんな色が似合うのか一緒に悩んだ。 鏡の前で首を傾げ、布を胸元に当てて色を確かめ、 手を唇に当てて静かに迷う姿が、夏の光の中で柔らかく揺れていた。 初めてなら迷うのは当然なのに、その迷っている姿がどこか愛おしかった。

着付けが終わって姿を見た瞬間、素直に見惚れてしまった。 白を基調にした水色と桃色の花の刺繍。 帯は淡い水色。 夏の光を受けて布が揺れるたび、その人の雰囲気と静かに重なっていた。

少し湿気を含んだ夏の日照りが強く、歩くだけで汗が滲んだ。 それでも着物は思ったより快適で、肌にまとわりつくことはなかった。 あの人は大丈夫だろうかと横顔をそっと見ながら、歩幅を合わせていた。 あまり歩かせたくはなかったけれど、 それでも一緒に並んで歩く時間が、ただ幸せだった。

立ち寄った土産屋で、風鈴の音がふいに響いた。 澄んだ音色が夏の空気を切り、あの人の美しさをさらに際立たせた。 その場に漂う音の純度が、まるでその人の雰囲気と重なっているように感じた。

初詣には、どこへ、どんな格好で向かうのだろう。 冬の空気の中で吐く白い息と、白を基調とした着物はきっとよく似合う。 冷たい空気の中に立つその姿は、まるで白雪姫のように見えるのかもしれない。 僕はさしずめ、小人のような立ち位置だろうか。 今はそばで、静かに見守るだけの存在として。

いつか冬の着物姿も見てみたい。 あの日悩んでいた他の着物も、きっとどれを纏っても美しいのだろう。 夏の空気の中でも、冬の静けさの中でも、 その人が選ぶ色が、そのまま景色になる。

この記憶は、白い火がそっと灯してくれた大切な景色のひとつだ。 昨日の私も今日の私も未来へ繋げる記録として、 今年の最後に静かにここへ置いておく。

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