名刺がつなぐ星の線

仕事

去年は、100枚近くの名刺を交換できた。
数字にすると、自分がどれだけ動いたかがよくわかる。
名刺を差し出すたびに、
あの人の言葉がそっと背中を押してくれる。
小さな積み重ねが、今の僕を支えている。

最初は、行く先々の視線が怖かった。
慣れない営業、飛び込みで協力をお願いする緊張。
社長さんの品定めするようなまなざし。
それでも、「星をつないでいくためだ」と思うと、不思議と勇気が出た。

自分の会社の何倍も大きな工場もあれば、
ガレージほどの小さなスペースで、家族で機械を回している会社もある。
扉を開けるたびに、そこに流れる空気も、匂いも、音も違う。
その場所にしかない技術と誇りがあって、
名刺を差し出すたびに、自分の世界が少しずつ広がっていくのを感じた。

すでに取引のある会社様からは、
「あの〇〇さんの息子さんか」と声をかけられた。
名前を出さずとも伝わる関係性があって、
自分がどんな場所から来て、どんな背中を見て育ったのかを
相手が一瞬で理解してくれる。
その言葉を聞いたとき、誇らしさと同時に、
自分もまた“自分の線”を描いていかなければならないのだと
静かに背筋が伸びた。

切削油の洗浄、六角ねじの鋳造、ローレット加工。
その一つひとつに、そこで働く人たちの時間と人生が刻まれている。
名刺を交換しただけでは会社のすべてはわからない。
社長さんでも把握しきれていない技術がある。
現にローレットは、社長より一般の社員さんのほうが詳しかった。

ただ、名刺の数だけ、これからの可能性が広がっていくのは確かだ。

名刺入れは、これからも仕事のたびに手に取る。
そのたびに、あの頃の仲間の気配と、
あの人がくれた小さな光を思い出す。
それが今の自分を、静かに前へ押してくれる。

机の奥から出てきた金色のメンバーズカード。
いつかメンテナンスで持っていく日が来るだろう。
メッセージカードには、心のこもった言葉が並んでいた。
自分のために選んでくれたもの。
自分の本質を、こんなにも理解してくれていた人がいた。
クールな見た目ではないけれど、
ユーモアには今でも少しだけ自信がある。

あの頃の出来事は、まだ完全には癒えていない。
それでも、少しずつ前へ進もうとしている自分がいる。
過去に寄りかかりすぎず、でも無理に忘れようともしない。
その距離感が、今の自分にはちょうどいい。

正月の挨拶メールには半日以上かかった。
新しい年の始まりだ。挨拶は大事だと思う。
その挨拶が届かなかったことで、
かつての仲間との絆は、もう薄いのだと理解した。
それでも、あの時の言葉や気持ちは確かに存在していた。
名刺入れを手にすると、その温度が静かに戻ってくる。

この感情や記憶が、忘れられたら楽だと思う瞬間もある。
けれど、人生の線は巻き戻せない。
戻らないからこそ、これから描く線に意味がある。

今年は「線を育てる」一年にすると決めた。
昨日の線も、今日の線も、未来へ繋がる一本になる。
今は、その途中にいるだけだ。

未来を決めつけなくていい。
未来は空白のままでいい。
今日の光を抱えて、また明日へ向かう。
そんなふうに生きていけたらと思う。

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