夕方、大切なあの人から光をもらえた。
長時間の運転でじんわり溜まっていた疲れが、その光にやわらかくほどけていくようだった。
シートにもたれていた背中が、自然とスッと伸びた。
午前は岐阜へ向かい、午後はそこから滋賀の長浜へ営業に向かった。
長浜も雪はちらつく程度で、まだ積もってはいなかった。
今夜から雪が大降りになるらしく、「ギリギリ間に合いましたね」と営業先の方に言われた。
温かい煎茶を少しだけいただき、ほのかな苦味がやけに美味しく感じた。
空気は冷たかったけれど、風がなかったおかげで、思っていたほどの寒さではなかった。
それでも街全体がどこか「これから雪が積もるよ」と予告するような、しんとした静けさに包まれていた。
その静けさは、今日の自分の心にすっと馴染んだ。
長浜には小谷城跡がある。
戦国時代、浅井長政とお市の方が暮らした山城で、日本五大山城のひとつにも数えられる。
険しい尾根に築かれた難攻不落の城として知られ、落城の物語は今も多くの人の胸に残っている。
昔、戦国無双(コーエイテクモ、無双シリーズ)で「小谷城の戦い」をプレイして以来、一度訪れてみたいと思っていた場所だ。
難攻不落と呼ばれるだけあって、ゲームでも複雑な地形に苦戦した記憶がよみがえる。
営業先から車で15分ほどの近い位置にあり、まだ暗くなるには時間があったので、思い切って向かってみることにした。

道中、田んぼにニホンザルが集まって、残った農作物をついばんでいた。
ご飯中にお邪魔してしまったようで、なんだか申し訳ない気持ちになった。
さらに山奥へ案内されたが、クマの気配が頭をよぎり、無理せず引き返すことにした。
突進されたら山の下まで真っ逆さまだ。無茶はしない。
自分の歩幅で、落ち着いて進めばいい。

帰り道、山の麓にひっそりと佇む秘湯の旅館を見つけた。天然温泉すがたにというところだ。
あとで調べてみると、正式には須賀谷温泉といい、どうやら三ツ星ホテルらしい。
山の静けさにすっかり溶け込んでいたから、そんな格式のある場所だとは思わなかった。
温泉も、とても幽景な趣があるようだ。
格式も知らず、作業着のまま中に入ってしまったけれど、大丈夫だっただろうか。
ホテルのフロントには、お市の方ゆかりのものなのか、肖像画と一重ねの鮮やかな錦の着物が飾られていた。
その色合いを見た瞬間、あの人がそれを羽織る姿が自然と浮かんだ。
こういう色のあの人も、きっと美しいんだろうと思った。
想像しただけで、胸の奥がふわりと温かくなった。
また、クマの出ない季節になったら改めて訪れたい。
そのときは、今日見つけた景色を、もっと丁寧にあの人に届けられたらと思う。
こちらも風が轟々と強くなってきた。
あの人は暖かく過ごせているだろうか。
体調はどうだろうか。
どうか、ゆっくりとできますように。


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