春の柔らかな日差しが部屋の隅々まで届く、とても穏やかな一日だった。
窓の外は驚くほどにいい天気で、空気は春特有の温かさを帯びている。ただそこにいるだけで、強張っていた心が少しずつ解けていくのを感じる。
ふとスマホ画面を覗くと、大切なあの人から光が届いていた。画面の中でキャラクターが幸せそうにゴロゴロとしているスタンプ。それを見ているだけで、トゲトゲしていた僕の心には静かな癒やしが広がっていく。直接隣にいるわけではないけれど、その一つの一コマに救われる自分がいた。
僕は自分の荒れがちな呼吸をひとつひとつ丁寧に整えて、待ち合わせの喫茶店へと向かった。
店には、予定より2時間も早く着いてしまった。水を飲みながら、これまでのこと、これからのことを整理する。定刻になり、役員が到着した。もっと刺々しい雰囲気になるかと身構えていたけれど、その表情は思いのほか穏やかだった。
1時間ほどの面談で、僕は今の自分を飾らずに伝えた。こうなってしまった原因、不安障害とパニック障害という診断名。今どんな現状にあり、どんな薬を飲み、どの程度の頻度で通院しているのか。役員は静かに耳を傾け、会社の現状を話してくれた。3月はとてつもなく忙しかったこと。そして、僕に復帰の意思を確認した。
提示されたのは、配置移動。営業から製造現場への異動だった。
実は、これは僕がずっとやりたかったことだ。かつて社長に「現場に入りたい」と伝えたことがあった。まさか、こんな形でその願いが叶う兆しが見えるなんて。
これまでの、何かを繋ぐ「星をつなぐ仕事」も大切に思っていた。けれど今は、自らが形を作る「星になれる仕事」をやってみたい。泥臭く汗をかき、ものづくりの純粋な楽しさを味わい、やりがいを肌で直接感じてみたい。
役員からの提示には、ひとまず「保留」という形をとらせてもらった。「すぐに答えを出さなくて大丈夫だ」と言ってもらえたことに、心底救われた。
喫茶店を出ると、緊張の糸が切れたせいか、ひどい疲れが押し寄せてきた。
今日は本当に疲れた。ひどく、疲れた。
でも、心の奥底にある澱が、少しだけ綺麗になったような気もする。
今はただ、頑張った自分を褒めてあげたい。
あの人のスタンプをもう一度眺めて、今日はゆっくり休もうと思う。


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