あの人が好きだった味

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自分の体のこと、あの人のこと。
細胞ひとつひとつが何を優先すべきなのか、沈黙している。
僕と同じように、あの人も整理している最中だと思いたい。

年末年始は、美味しいものが並ぶ季節だ。

大切なあの人は、季節なんて関係なく、どんなものでも本当に美味しそうに食べていた。

でも、期間限定の食べ物を前にしたときのあの人は、少し特別だった。

お菓子の袋を開ける前から嬉しそうで、ひと口食べた瞬間に表情がほどけて、子どものように目を細めていた。

その顔を見るのが、たまらなく好きだった。

一緒の空間にいるだけなのに、世界が少し明るくなるような気がした。

あの人が「美味しい」と言うたび、自分まで救われていくようで、その時間がずっと続けばいいと思っていた。

ただ、今の自分が共有できる「美味しい」は限られている。
それでも、時間が経てば内視鏡切除後の制限はそこまで厳しくないと聞いている。胃の機能は損なわれていない。粘膜さえ回復すれば、また今までのように食事を楽しめるらしい。
先生の言葉だ。信じたい。
季節は巡るのだから。

何かが住みついているような違和感の残る胃をそっと押さえながら、ゆっくりとコンビニに入る。
あの人とまた同じ未来を歩めるなら、いつか一緒に食べられるかもしれない。そんな淡い願いを胸に、お菓子の棚を眺めていた。

棚の端に、期間限定の梅味のグミが吊るされていた。
あの人が好きだった味だ。好きだと聞いて急いでコンビニを走り回った記憶が蘇る。もうそんな季節なのだと思った。

けれど主治医に聞いてみると、グミはまだ控えた方がいいと言われた。
切除したのは胃の下部だけれど、噛みきれないグミが粘膜を傷つける可能性があるらしい。もし傷つけば、また手術になるかもしれない。梅の酸味も、今の胃には刺激になることがあるという。

次の6月の検査まで待つ必要はないが、粘膜の回復には個人差がある。
それに、心の調子のことも考えると、今は無理をしない方がいい。
先生はそう、やわらかく伝えてくれた。
「まずは1ヶ月、柔らかくて刺激の少ない食事を続けましょう」と。

厳しく聞こえたけれど、自分の体のためだ。我慢するしかない。

これからしばらくは、食べるものも飲むものも、自分だけの判断では決められない日々が続く。正直、窮屈に感じる。
季節限定の食べ物も、揚げ物も、ラーメンも、チーズたっぷりのピザも。誰かが並ぶその列に、僕は並ぶことができない。
生きるために欠かせない「食べること」さえ制限される現実。

そんな中で、あの人が好きだったお菓子を食べられないことが、胸の奥に響く。
小さなことなのに、とても悔しくなる。

それでも今はただ、未来の自分がまた一粒を口にできる日を、焦らず願っている。

まずは自分を知ること。病やあの人への気持ちを含めて。知らないままでは胸を張ってあの人の前に立てないから。

このブログのアイキャッチは、読んでくださっている方に向けたものです。
どうかお身体に気をつけて。読んでいただき、ありがとうございます。

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